眉間に咲いた紫の花

ひろろがアルバイトをしているお店は、全国チェーン店なので、もちろん広島にもある。だけど、行ったことがあるかないかもわからないほど行ったことがないので、今日はウキウキしながら行ってみた。



店内はガラガラで、あたしたち以外にお客さんは１組もいなかった。「井上のおばちゃん」と言うよりは「井上君のお母さん」と言ってあげたほうがいいのでは？といういらん気遣いをさせてそうな女性店員がやってきて「ご注文はお決まりでしょうか？」と言った。



ひろろのオススメを無視して、あたしは自分の好きなクリーム系のパスタを頼んだ。頼んでから、ニンニクが入ってることに気付いた。店員を呼ぶと、コックさんの格好をした、学生風の若い男性店員がやってきた。「ニンニク入れないでもらうことってできますか？」と聞くと「あぁ、大丈夫ですよ」とニッコリ笑った。



キッチンは、調理している人の顔が見えるような造りになっていた。井上君のお母さんと時々喋りながら、コックさんはあたしのパスタを作っていた。のんびりとした、気持ちの良い雰囲気だった。



「お待たせいたしました」と言って、井上君のお母さんはパスタを持ってきてくれた。とっても美味しそうなクリームパスタは、予想以上にお皿がダサくて、予想以上に熱くて、予想以上に具が多くて、予想以上に美味しかった。



何を見ても、何をしても、ずっとひろろのことばかり考えていた。







実は、ひろろはあたしのことがそんなに好きじゃないのかなってずっと思ってた。

あたしはこんなに好きなのに、それは寂しいなって思ってた。



あたしは尋常じゃないほどメールを読み返すのが好きなのだけど、ふとメールを見ていて、どっちかっていうとあたしの方がそっけないなっていうことに気付いた。あたしはメールが大好きだけど苦手なので、内容が薄っぺらで短いし、時々返さない。だけど、そんなあたしに、おはようメール、バイト頑張っておいでメール、バイト行って来るねメール、バイト暇だよメール、バイトおつかれ電話、バイトから帰ってるよ電話、おやすみメール、は必ず送ってくれる。これは結構すごいことだと思う。嬉しい。



と姉に言うと、「そういうのウザい」と言われた。

あたしは「嬉しい」と思える種類の人間でよかった。